日々、小遣い制として欠乏状態と闘っている姿をお届けしている僕であるが、製造業におけるコンサルという、不人気かつ触れられる事のない肩書きも持っている。
そんな中、流行に乗って僕もsarahahを始めてみたのだが、思いの外マジメな質問が来た(ちなみにこの質問以降、僕のところに質問は来ない。)
もっと気軽に絡んでね(↓)
https://vagabondskaz.sarahah.com/
マジメに質問頂いたので、今回はちゃんと答えていきたい。僕だって、婚外恋愛やアラツーとよろしくやるだけのアカウントでない事を証明しなければ。
さて、質問。
「日本の製造業はもうダメだ」と言われて久しいですが、シャープがEMSであるホンハイに買収されたようにエンジニアリングや生産管理にはまだ日本企業は強みがありそうです。シリコンバレーが急速な成長を遂げてから専業化、分業化の流れが世界的に広がっていますが、日本のメーカーもエンジニアリングや生産管理に特化したり、その知見を横展開すれば生き残っていけるように思われます。お時間があればで結構ですのでこの様な仮説に対して元トヨタ生産方式コンサルタントのご意見をお聞かせ下さい。
はい、コレですね。
僕の意見は、ご質問者と基本的には同じである。
「日本の製造業はオワコンではないが、残る業種とそうでない業種に分かれる。」んじゃないか?
と思っている。
日本の製造業全体が終わりかというと、それはあまりに暴論であると思っている。
過去にはこんなツイートもしているが、僕が思っていることをもう少し詳細に述べたい。
製造業はオワコンって話をたまに聞くけど、僕らの生活に物は必要だし、業としての製造業はまだまだ強いと思う。
但し、就職先としてどうかというとオワコンに近いかもしれない。
自動化が進んだ業態にしても労働集約型の仕事にしても、「日本人」が製造の仕事をする必要性がないからね。
— Kaz (@12_vagabond) 2017年3月28日
どういう事か、順を追って説明したいと思う。
まず、「製造業はオワコン」だとする言説の根幹にあるのは、昨今の製造業における不祥事だろう。
日産、神戸製鋼、東レ、三菱マテリアルのデータ改ざんだ。東芝などは粉飾決算という問題だが、そもそもの企業体質のあり方自体が問題のように思う。
過去にはカネボウもバラバラになった。
◆シャープがホンハイに買われたら「終わり」なのか?
sarahahで質問があったように、「日本の製造業はもうダメだと言われている」がとあるが、「もうダメ」の定義付けは必要だろう。
「もうダメだ」と言っている人達は、「日本企業が海外勢に買収される事自体」を「終わり」としているような気がしてならない。
彼らは「技術力が海外に流出する」という。
また、そうした人達は、「日本の製造業が海外勢に取って変わられる」と言う。何の根拠もなしに、海外の投資ファンドを「ハゲタカ」だとか「黒船」だと言って毛嫌いする。
僕自身、質問者の方も書かれているように、海外勢に買収されて生き残るのは、「終わり」だとは思えない。
今日もこの記事を書いている時に、シャープが東証一部に息を吹き返した。
本年は黒字化もしたようだ。
その理由の一つにホンハイのやり方(シャープ業績回復の原動力、鴻海流経営の中身)があるだろうが、もともと技術力やブランド力があるからこそ成しえたものだと思うし、そうした事が出来る価値があると踏んだからこそ、ホンハイはシャープの買収に踏み切ったのだと思う。
こうした事例は全てでは無いかもしれないが、日本の製造業がオワコンではない証の一つだと考えている。
東芝の粉飾は確かに問題だが、原発の廃炉の技術や、重電関係のビジネスなど、国に与える影響が大きすぎるが故にバラせない。
リーマンブラザーズのときにあった「Too Big, Too Fail」というやつだ。
これもある意味では、必要だから潰せない=終わりではない証、という見方も出来る。
あまり詳細は書けないが、今後成長が見込まれる国の製造現場もいくつか見たし、その会社の考え方もある程度は知ることが出来た。
もちろん限られた現場しか見ていないため、ここで「だから日本のほうが凄い」と結論づけるつもりは無いが、こうした国の人達は、製造業云々もそうだが、そもそもの仕事に対する捉え方が日本人とは違う。
一言であらわすと「適当」なのだ。ツメが甘い。
製造業は「モノ」を作る業である。この業界には4M(Machine, Method, Man, Material)という考え方があり、このどれもがいい製品を作るためには必要で、一つでも欠けてはならない。
「いい人材が、いい設備を使って、正しい方法で、いい材料を加工する」からこそ、いい製品が出来るのは当たり前の話だが、この4Mを揃えられるお国柄というのはなかなか存在しない。
こうした素地に恵まれている日本の製造業には、海外勢に対してはまだまだ分があるなと感じる。
IT革命で僕らの生活は変わった。個人としては、インターネット超凄いなと感じる場面は多い。
ベンチャー起業の趨勢は確かにすごい。AmazonにFacebookは、確かに僕らの生活を変えた。
製造業に関しても、一見するとそのような流れが見える。テスラなどがそうだ。
だが、それを構成する部品会社、とりわけ素材に関しての技術力は一朝一夕では絶対に成し得ないものばかりである。— Kaz (@12_vagabond) 2017年9月4日
とりわけ時間やお金の使い方に関しては180度認識が変わった。僕も日々、そのテクノロジーの素晴らしさに感動を覚えている。
だけど、僕達の生活の周りにあるインフラなどのモノは製造業なくしてはあり得ない。
◆大事なのは、「コアコンピタンス」と「ヒト」
新日鉄住金という会社がある。
この会社は国内の電車の車輪のシェアを100%握っている。もちろん旧国鉄と旧八幡製鉄所からの付き合いという面もあるだろうが、車輪を作るための新日鉄が持っている鍛造(鉄を叩いて成型する加工)の技術は、鍛造の中でも超特殊な鍛造で新日鉄にしか出来ない独自の方法である。
こうしたコアコンピタンスの結晶が日本の製造業を支えていると僕は思う。
社内政治が醸成されやすい企業体質というのは日本企業の悪いところかもしれないし、経営面での手腕は、東芝やシャープよりホンハイの方が上だろう。
だが、ホンハイも欲しがるほどのコアコンピタンスというのは、突き詰めて考えるタイプの日本人が積み上げてきたものであり、ここに関しては、一日の長がまだまだあるのでは、と思っている。
◆残る業種とそうでない業種
但し、やはり残っていく業種とそうでない業種があるとは思う。
よく、ビッグデータによってパターン分析が出来るようになると、AIに置き換えられると言われ、今後無くなっていく仕事も多いという話は聞く。
「製造業がオワコン」とする言説には、製造業がAIやロボットへ置き換えられるから、という見方もあるだろう。
・大量生産の世界と少量多品種の世界
例えば、自動車産業や半導体産業は紛れも無く大量生産の業界である。
顧客から必要とされる数量を、なるべく早い時間で、なるべく同一の品質で製造しなければならない。
普通、製造業というのは、同じものを作れば作るほど品質は安定していく(というかそういう風に工程設計をする。)
10万個のうち1万個が不良だったら話にならない。
コレを図る指標として「工程能力」というものがある。これは標準偏差を用いて、「何千ヶの内、何ヶが規格の寸法を満たしているのか」を図る指標である。
こんなの↓
その為のデータ取りは、いまやキーエンスを初めとするセンサーメーカーの独壇場で、より早くより安定した品質のものを世に送り込んでいる。
要するに、「必要なスペック」のものを「安定した品質」で、「必要な数量」作れば良いわけで、製造工程内での不良の原因をビッグデータで解析し、そのデータを元に生産の全てをロボットが担う事が出来る業界というものは、少なくとも製造現場に人の居場所は無くなっていくだろう。
ここで、質問があるように「生産管理など」のいわゆるバックオフィスの強みというのは確かにあると思う。
同じ自動車業界でも、トヨタの生産計画はほとんどブレがない。1ヶ月前の内示情報と確定の数量の比は±5%以下に抑えられている。
これは、作りすぎても各販社に在庫を押し付けることが出来るという見方もできるが、商品開発からマーケティングまで一貫した体制が構築できているからこそ成せる業だ。
ただ、トヨタではそのブレの少なさ故に、もしかしたら生産管理などもAIへの置き換えが進むかもしれない。
(ちなみにホンダや日産などの計画数量は普通に±20%ほどブレる。ブレるが故に人海戦術で合わせに行く部分も多い。)
生産に関しては上述の通りだが、開発はどうだろうか。人の感性に訴えかけるようなデザインをAIが担えるかと言われると疑問なところである。
人間らしいものは、データの寄せ集めではないからだ。人の「感覚」や「感情」は、やはり人にしか表現できない。
少し話が逸れたが、スピードありきの業界は基本的に解析~生産までをロボットが行ったほうが効率的で正確なので、AIに仕事を奪われる場合も多いのでは?というのが僕の考え。
これは製造業そのものがオワコンという話ではなく、従業員としてはオワコンに近づいていっている、と見ることも出来るかも知れない。
但し、同じ製造業でも大量生産を必要としない業界というものがある。
例えば、建設機械や建設関係、造船、航空業界などだ。
これらは、製品の多くを一品一様で作っており、データ解析の積み上げと生産を全てロボットが担うという事が難しい。
もちろん、共通化できる工程、材料、部品は統一化されていくとは思う。だが、こうした業界での製造現場でロボットが導入される場面というのは、しばらく来ないと思っている。
投資に見合わないからだ。
1つ1つの製品を作るのに、人がやったほうが、ロボットを導入するより安く、確実である場合、まだまだ人が製造現場に残っていくと思われる。
特に、IHIや三菱重工、川崎重工などと付き合いのあるサプライヤーは、自動車と違って、中小企業が大半を占めている。
中小企業の後継者問題というのは別にあるとしても、まだまだ職人が活躍する場面は残されていると思う。
◆結論
このように業界によるが、今ある仕事がAIに奪われつつあるというのは間違いない。自分がどういったポジションを取るか、マーケットや業界動向を掴んだ上で決めればいい。
「全ての製造業がオワコンではないが、従業員としてどういうポジションで働くかを考えていく時代になってきている」
という月並な結論が僕の考え。
やっぱマジメな記事は書くのに時間掛かるわ。
ご参考にして頂ければ嬉しいです。
おわり
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